人工視覚って何?
人工的な視覚をもたらすための医療機器であり、システム装置である「人工視覚」。
このシステムを詳しく知る前に、システムの大事なポイントを3つ押さえておきましょう。
ポイント1:人工視覚=電気デバイス
人工的に「視覚」を創る「人工視覚」。では、そもそも私たちの生来の「視覚」は、一体どのように生みだされているのでしょうか?それは、精巧緻密な、しかし、とても合理的な人間の身体の仕組みによってもたらされています。この仕組みには、身体のさまざまな要素が関係していますが、その中でも最も大事な要素のひとつとも言えるのが、生体内の「電気」です。視覚とは、実は「電気現象」でもあるのです。
人工視覚は、この「電気」に注目しています。疾患によって、生体内での電気信号の発生や伝達に問題が起こり、視覚が成立しないとき、これを電気デバイスによって補助し、一部の機能を代替しようとするのが「人工視覚」です。人工視覚は生体組織を電気刺激し、電気信号がもう一度送られるように補助する装置です。
なお、この視覚に関する電気信号をつくる細胞は「視細胞」といい、眼の奥の「網膜」という神経組織にあります。網膜から脳までの神経細胞は主に電気信号によって視覚の情報を伝えていきます。

ポイント2:医療機器のタイプ=「インプラント」型医療機器
人工視覚は、それぞれ役割を持ったいくつかのデバイスからなるシステム型の医療機器です。システムのうち、一部のデバイスは、手術によって眼内や体内に植え込まれ、そのまま留置されます。そして使用時に、体外の他のデバイスと共にシステムとして利用されます。
このような、長期間体内に植え込まれる医療機器や医療用具を一般に「インプラント」と呼びます。インプラントのうち、体内で作動する電子デバイスであるインプラント装置は近年、さまざまな分野で実用化が進み、また、人工視覚のような新奇なインプラント技術の研究開発が盛んにおこなわれています。

インプラント装置には、体内という特殊な環境であっても、確実に機能するという有効性はもとより、安全性と信頼性が一番に求められます。よって、インプラント装置の開発では、対象とする臓器や組織との安全なインターフェースについても、数多くの基礎研究が必要になります。例えば、インプラントに使う材料をさまざまな条件で試験し、実際に製造したときや、その後の特性の変化の有無、またその変化の様子を研究します。場合によっては材料自体を新しく開発することも必要になります。
ポイント3:人工視覚で回復する視覚 = 光の点のあつまり
人工視覚を使ったときに回復される視覚は、生来の視覚とはかなり異なったものです。例えば、単純な電光掲示板で表現されるような、複数の光の点で構成される、シンプルで粗い輪郭の画像のようなものとなるでしょう。

「このような粗い輪郭の画像が本当に役に立つのか?」と思われるかもしれません。しかし、このような粗い画像でも、各種の試験やシミュレーションの研究により、「大きな文字が読める」「障害物があることがわかる」といった行動が可能になると予測されています。たとえ生来の視覚と同等ではなくても、人工視覚による視覚の回復によって、患者さんの行動範囲が広がり、独立してできる動作が増えるとすれば、新しい医療機器としての開発と実用化には、大きな意義があることには間違いありません。
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